原点を通る3次関数の接線の式を代数的に求めてみる

3次関数の接線に関する問題は、接点の座標を使って接線の関数を立て、
その接線が3次関数上にない決められた点を通るので…という流れで解くのがセオリーです。
微分を用いた、いわゆる「逆手流」の解き方ですね。

3次関数y=px^3+qx^2+rx+sの接線が点(a,b)を通るときの、
接線の式を求めよ、という問題は、
接点のx座標をtと置くことで、接線の式を
y=(3pt^2+2qt+r)(x-t)+pt^3+qt^2+rt+sと表せるので、
これが点(a,b)を通るということは、
b=(3pt^2+2qt+r)(a-t)+pt^3+qt^2+rt+sが成り立つので…という流れで、
接点のx座標をtを求め、そこから接線の方程式を求める、
という方法です。

(a,b)がたとえ原点、つまり点(0,0)であっても同様であり、
某有名予備校の某講師曰く、
「ここ(=点(a,b))が原点だとぉ、誘惑に負けて
 y=mxなんて置いちゃう輩がいるけど、駄目だよぉ!」
というやつです。

じゃぁこれを敢えてy=mxと置いて解こうとするとどうなるのか、
ちょっとやってみようと思います。

カルダノ=タリタリアの公式

カルダノ=タリタリアの公式(単にカルダノの公式とも)とは、
3次方程式の解の公式です。
中学・高校で、2次方程式ax^2+bx+c=0の解の公式
x=\frac{-b\pm\sqrt{b^2-4ac}}{2a}
を習いましたが、これの3次方程式バージョンです。

この公式自体については、他の書籍やWebサイトに譲りますが、
導出までの手順としては、

  1. 3次方程式ax^3+bx^2+cx+d=0を立体完成する
  2. x+\frac{b}{3a}=Xと書き換える
  3. 更にX=u+vで置き換える
  4. 書き換えたuvの式はuv恒等式であることを利用して、u^3+v^3u^3v^3の値を求める
  5. 2次方程式の解と係数の関係を用いて、u^3v^3の値を求める
  6. uvとの関係に注意して、3つのuvの組を求める
  7. ここからXの値を算出し、最後にxの値を算出する

という流れです。

今回は、この流れを途中まで利用して、
先の問題、「接線の式を敢えてy=mxと置いて解いてみる」をやってみます。

方針

接線y=mxが3次関数y=f(x)と接しているということは、
これを連立させることで得られる3次方程式f(x)-mx=0
重解を持っているということになります。

ところで、2次以上の方程式が複素数を解に持っている場合、
その共役の複素数も解であるという決まりがありますから、
3次方程式が重解を持っている、という時点で

  • その重解は実数である
  • 残りの解も実数である

ことが判明し、3つの実数解(うち2つは重解)を持っていると言うことができます。

このこと踏まえて、先ほどのカルダノ=タルタリアの公式の流れを進むと、
5.の「u^3v^3を求める」タイミングで、これが重解である必要が出てきます。
これを使って、mの値を求めます。

例題

例題として、次の問題を解いてみます。

3次関数y=x^3-3x^2-1の接線が原点を通るとき、この接線の関数を求めよ

普通に導関数を用いて答えを求めると、
(過程は省略しますが)y=-3xy=\frac{15}{4}xが正解です。

回答

3次関数の接線として、y軸に平行なものは存在しないので、
原点を通る直線の関数は実数mを用いてy=mxと置ける。

これが3次関数y=x^3-3x^2-1に接しているので、
この2式を連立させyを消去することで得られる
3次方程式x^3-3x^2-mx-1=0が実数の重解を持つことになる。

ここで、この3次方程式を以下のように変形する:
x^3-3x^2-mx-1=0
(x-1)^3-3x-mx=0
(x-1)^3-(m+3)(x-1)-(m+3)=0

ここでx-1=Xと置くと、
X^3-(m+3)X-(m+3)=0となり、
このXの3次方程式が実数の重解を持つこととなる。

更に、X=u+vと置く。
すると、この3次方程式の解の一つの値に対して、自由にuを定めることができ、
それに対応してvが定まることになる。
すなわち、X=u+vで置き換えた
(u+v)^3-(m+3)(u+v)-(m+3)=0は、uv恒等式である。

上式を変形すると、
u^3+v^3+\{3uv-(m+3)\}(u+v)-(m+3)=0となるが、
式中のu+vについて、

1)u+v=0の場合
u=-vであるので、この式はm=-3となる。
なお、この時X=0x=1であるから、
重解を持つとした3次方程式に代入すると、こちらもm=-3となり矛盾がない。

2)u+v\neq0の場合
u^3+v^3+\{3uv-(m+3)\}(u+v)-(m+3)=0uv恒等式であるので、
u^3+v^3=m+3
uv=\frac{m+3}{3} i.e. u^3v^3=\frac{(m+3)^3}{27}
が成り立つ。
従って、u^3v^3は、
t2次方程式t^2-(m+3)t+\frac{(m+3)^3}{27}=0の解である。

この解を、u^3=\alphav^3=\betaとすると、
u={}^{3}\sqrt{\alpha}, {}^{3}\sqrt{\alpha}\omega, {}^{3}\sqrt{\alpha}\omega^2
v={}^{3}\sqrt{\beta}, {}^{3}\sqrt{\beta}\omega, {}^{3}\sqrt{\beta}\omega^2
(\omega=\frac{-1+\sqrt{3}i}{2}と定義する、これは1以外の1の3乗根2つの内の1つであり\omega^3=1を満たす。)
となるが、uv=\frac{m+3}{3}が成立する必要があるので、
1つのuについて、1つのvが対応することになる。
具体的には、uvは実数である必要があるので、3つのuvの組、
(u,v)=({}^{3}\sqrt{\alpha}, {}^{3}\sqrt{\beta}), ({}^{3}\sqrt{\alpha}\omega, {}^{3}\sqrt{\beta}\omega^2), ({}^{3}\sqrt{\alpha}\omega^2, {}^{3}\sqrt{\beta}\omega)が解となる。

ところで、Xの3次方程式が実数の重解を持つということは、
上記3つの組から算出した3つのu+vの値の内、2つが同一であることを意味する。
つまり、{}^{3}\sqrt{\alpha}\omega={}^{3}\sqrt{\beta}\omega{}^{3}\sqrt{\alpha}\omega^2={}^{3}\sqrt{\beta}\omega^2が成り立つ必要があるので、
u^3v^3を解とするt2次方程式t^2-(m+3)t+\frac{(m+3)^3}{27}=0の解も
重解であることになる。

この2次方程式の判別式をDとすれば、
D=(m+3)^2-4\cdot\frac{(m+3)^3}{27}=0となる。
このmの3次方程式を解くと、
(m+3)^2(1-4\cdot\frac{m+3}{27})=0
(m+3)^2(4m-15)=0
m=-3, \frac{15}{4}
となる。

1), 2)より、m=-3, \frac{15}{4}であるから、
求める接線の関数は、
y=-3xy=\frac{15}{4}xとなる。

感想

これは、普通に接線の公式を使った方がいいわ。
y=mxなんて置いちゃう輩の末路はこうなるということです。

補足

ちなみに、実は3次方程式にも解の公式というのは存在します。

ax^3+bx^2+cx+d=0a\neq0)の時、
判別式D
D=-4ac^3-27a^2d^2+b^2c^2+18abcd-4b^3d
となります。
この時、
D>0:異なる3つの実数解を持つ
D=0:重解を持つ(2重解or3重解はわからない)
D<0:1つの実数解と2つの虚数解を持つ
となります。